激しい競争社会の中で

子どもを育てる親の葛藤。

「自由に生きてほしいけど、

路頭に迷ってほしくはない。」

 

中国・上海でキャリアを積んだあと

オーストラリアに転勤した彼女に

色々と話を聞きました。

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オーストラリアに来たのは、家族として大きな決断だった。

 

Q:オーストラリアには、家族みんなで移ってきたの?

A:まずは私が生活や仕事に慣れてからと思って、今は単身赴任をしてる。でも、もうすぐ夫と6歳になる娘もこちらに来るの。夫は10年ほど前から会社を経営していて、社員も40人くらいいるし工場もあるから、そのビジネスを畳むプロセスにも時間が必要だった。彼は英語がほとんど話せないから、本当に今までと全く違う経験というか、冒険になるよね。

 

Q:家族で移るというのは、難しい決断だった?

A:もちろん、とても大きな決断だった。私も永住権をもらえるわけじゃないし、この先どれくらいオーストラリアにいられるのか分からない。外国人だから、教育費や医療費も割高になる。いずれ上海に戻ったらどうなるか、夫が海外生活を気に入るか、働いていない父親を見て娘がどう感じるか、夫自身がそれをどう感じるか…不安を挙げればきりがない。リスクがあることは承知の判断だった。

 

一人っ子政策が終わった今でも、誰も2人目が欲しいと思わないのは、1人でも十分大変だから。

 

Q:不安があるにも関わらず、オーストラリアに来ることにしたのはなぜ?

A:娘の教育が大きな理由だった。中国や上海の競争社会はどんどんクレイジー(熾烈)になっていて、幼い頃から良い成績を取ることへのプレッシャーにさらされ続けるの。それこそ、自分を知ったり、どんな仕事が合っているのか考えたりする時間なんて与えられない。

 

Q:クレイジーな競争って、具体的にはどんな感じ?

A:まだ4、5歳の子が、「もっと早く、正確に」って時間を計測されながら、100%の正確性を目指して2桁の計算問題を必死で解いている。私の世代が大学受験で体験したようなプレッシャーが、だんだんと年齢が下がって、娘の世代では幼稚園から始まっているの。母として、本当はもっと自由に遊ばせてあげたい。でも、良い成績を取らないと彼女が望む人生を手に入れられないと分かっているから、宿題を見てあげる時にも、どうしても厳しくなってしまう。そんな自分も嫌になっていた。

 

Q:上海では、どんなスケジュールで1日を過ごしていたの?

A:朝9時から夕方6時頃まで働いて、7時半頃に家に帰って食事をして、週に何回かは海外とのミーティングに出て、少しゆっくりしたらもう寝る時間。通勤は渋滞にはまると、片道1時間ほどかかっていた。平日は私の両親が娘の送り迎えや、宿題の手伝いなどをしてくれた。週末になると、私がピアノとかサッカーとか、あちこち習い事に連れていっていた。息つく暇もない、って感じだった。

 

Q:女性も働くのが当たり前の社会で、子どもの教育にそれだけ時間やエネルギーを費やさなきゃいけないって、なんだか逆説的な気がするけど、みんなどうやってバランスを取るの?

A:ベビーシッターを雇うのもそれほど高くないとはいえ、一人っ子政策が終わった今でも、誰も2人目が欲しいと思わないのは、1人でも十分大変だから。だから、上海では両親と同居する人が多い。だけど両親が年老いたら、それも介護の負担に代わる。その場合は、中国には老人ホームっていうのがないから、誰かを雇ってお世話をしてもらうのが一般的。

 

背中を押したのは、”You only live once.(人生は一度きり)”という言葉。

 

Q:旦那さんにとって、ビジネスをするのは夢だったのでは?

A:そうだと思う。だからこそ、月曜から日曜まで仕事中心で、ほとんど休みなく働いていた。家族でいても、緊急の電話がかかってくると出かけて行かなきゃいけなかった。だけど、そうして娘との時間がなかなか持てずにいるうちに、家族としての貴重なつながりが失われてしまうんじゃないかって、お互いに危機感を持つようになっていた。

 

Q:それだけ働いていると、体調も心配だったのでは?

A:彼は家では仕事のことについて話さない人だけど、時々独り言のように口にするのを聞いていても、経営者のプレッシャーって全く違うんだなって思った。私も責任ある仕事をしているし、ストレスが高い仕事だと思っていたけど、毎月決まった日にお給料が入ってくるのと、その日にお給料が払えるかを考えるのってレベルが違う。彼も40歳になって、色々考えるところがあったと思う。

 

Q:それで、環境を変えようと?

A:その時に背中を押したのは、”You only live once.(人生は一度きり)”っていう言葉だった。年を取るにつれ、思い切った決断をするのにはかなりの勇気が必要になってくる。あまりに多くの現実が、決断を妨げようとするからね。でも振り返ってみて、決めたことに後悔はない。夫もこちらに来ることを楽しみにしているわ。